塾長のひとりごと
「こんなのでは部活を見たくなる先生が減る」広島県の部活顧問2人の懲戒処分から考えたこと
こんにちは、完全個別指導塾オールウェイズです。
今日は、広島県の教育に関するニュースを一つ取り上げます。
9月11日、広島県教育委員会が、県立高校の部活動顧問を務める男性教諭2人を戒告の懲戒処分にしたと発表しました。
理由は、部活動の練習試合への引率中、所属長の承認を受けずに生徒を自家用車へ乗せたことです。
33歳の教諭は生徒19人を、25歳の教諭は3人を自家用車に同乗させました。
報道によると、宿泊地から練習試合会場までは約16km離れており、33歳の教諭は生徒を運ぶため4往復半したとされています。
2人は規定違反と知りながら行い、「他に移動手段が無かった」と説明しています。
広島県のニュースが全国的に注目されること自体は珍しくありません。
ただ今回は、教育に関わる人間として、あまり嬉しくない形で広島が注目されたなと思いました。
そして記事を読んで最初に感じたのは、「こんなのでは、部活動を見ようと思う先生が減る一方ではないか」ということでした。
先に書いておくと、先生方はルールを破っています
ここは切り分けなければいけません。
「生徒のためにやったのだから何をしてもいい」という話ではありません。
広島県教育委員会は2022年、所属長の承認を受けずに自家用車等へ児童生徒を同乗させた職員について、標準的な処分を戒告とする指針を設けています。
背景には、児童生徒へのわいせつ事案などを防止する目的があります。しかも規定上は、所属長の承認だけでなく、事後承認も含まれています。
今回の2人について、県教委の正式な発表にも「所属長の承認を受けることなく」と明記されています。
つまり、「先生が生徒を車に乗せただけで突然処分された」と捉えるのは正確ではありません。
決められたルールがあり、今回の教員もそのルールを知っていた。
その前提は外してはいけないと思います。
それでも、どうしても引っかかる
一方で、このニュースにはそれだけでは片づけられないものを感じます。
生徒22人を連れて練習試合へ行く。
宿泊地と会場は約16km離れている。
そして「他に移動手段が無かった」。
その結果、一人の先生は何度も車を往復させ、生徒19人を運んだ。
もちろん、なぜ事前に別の移動手段を準備できなかったのか、所属長へ承認を求めたのかなど、報道だけでは分からない部分があります。
そこを想像で先生方に都合よく補うつもりはありません。
ただ、私が気になるのは、そもそも部活動の引率で、現場の教員がこんな判断を迫られていること自体です。
「ルールを守れ」で終わるなら、次は誰が運ぶのか
規定違反なので処分する。
制度としては理解できます。
では次に同じ状況になったとき、生徒はどうやって16km先の会場へ行くのでしょうか。
貸切バスを手配する。
タクシーを使う。
保護者に送迎をお願いする。
公共交通機関を利用する。
試合そのものを取りやめる。
方法はいろいろ考えられます。
でも、それを誰が手配し、誰が費用を負担し、誰が責任を持つのかまで決めなければ、「車に乗せてはいけません」だけでは現場は動きません。
ルールを守らせるなら、守れる仕組みもセットで必要です。
私はそこが今回、一番考えなければならないところだと思います。
部活動の先生は、そもそも本来の仕事以外をかなり担っている
学校の先生の本来の専門は、まず授業です。
教材研究をする。
授業をする。
テストを作る。
採点する。
成績をつける。
生徒指導をする。
保護者対応をする。
学校行事もあります。
そこへ部活動が加わります。
放課後の指導。
土日の練習。
大会。
練習試合。
遠征。
引率。
そして今回のような移動手段の手配まで。
その一つひとつに安全上の責任も伴います。
好きな競技を担当している先生ばかりでもありません。
広島県が今年7月に策定した「広島県部活動改革推進計画」でも、全国の中学校では、保健体育の教員ではなく、なおかつ担当競技の経験もない教員が26.9%いるというデータを紹介しています。
「先生なんだから部活を見るのは当然」という時代では、もうなくなってきています。
生徒のために頑張った結果、リスクだけが先生へ返ってくるなら
今回の行為を肯定したいわけではありません。
ただ、先生側から考えてみます。
休日に部活動を引率する。
宿泊する。
移動手段まで考える。
何か事故が起きれば責任を問われる。
規定から外れても処分される。
では、「そこまでして自分が部活を見よう」と思う先生が、この先どれだけいるでしょうか。
私なら、若い先生ほど、「だったら顧問を持ちたくありません」となっても全く不思議ではないと思います。
善意や責任感の強い人ほど仕事が増え、何かあればその人が責任を背負う。
そんな仕組みは長く続きません。
ただし、このルールができた理由も軽視してはいけない
一方で、「先生を信用すればいい」だけでも解決しません。
今回問題になった自家用車への同乗規定が厳しくなった背景には、教員による児童生徒への不適切な行為を防ぐ目的があります。
これは非常に重要です。
密室になる車内で、教員と生徒が二人きりになる。
そこに一定のルールを設けること自体には意味があります。
また、交通事故が起きれば取り返しがつきません。
実際、今年5月には福島県の磐越自動車道で、部活動の移動に関係する事故により高校生が死亡・負傷する事故もあり、その後、広島県教委も学校への聞き取りなどを行っていました。
だから、「面倒なルールだからなくせばいい」という話でもない。
安全は守る。
生徒も守る。
そして先生も守る。
この3つを同時に考えなければならない問題です。
必要なのは「先生にもっと頑張ってもらう」ことではない
ここで、「先生には事前にちゃんと計画してほしい」だけで終わらせると、また全部先生へ戻ります。
私は逆だと思います。
先生個人が、移動方法を調べ、業者へ連絡し、費用を調整し、保護者へ連絡し、当日は引率し、さらに競技の指導もする。
これを前提にしない仕組みに変えていく必要があります。
大会や遠征時の交通手段。
引率を担う人。
外部指導者。
地域クラブ。
費用負担。
事故が起きた場合の責任関係。
ここまで仕組みにして初めて、先生が安心して関われます。
広島県自身も「部活動改革」を進めています
ちょうど広島県は、今年7月に「広島県部活動改革推進計画」を策定しました。
主な対象は公立中学校ですが、その中では、休日の部活動を地域へ展開することや、部活動指導員の配置、指導者の確保、地域との連携などを進める方針が示されています。
県は、学校部活動には人間関係の構築や自己肯定感の向上など教育的な意義があることも認めています。
私は、この方向自体は必要だと思っています。
部活動をなくせばいいわけではありません。
部活動で救われる生徒もいます。
学校生活の一番の楽しみが部活動という生徒もいます。
勉強では自信を持てなくても、スポーツや文化活動で自分の居場所を見つける生徒もいます。
だから残したい。
でも、残したいから先生に全部やってもらう。これは違います。
「部活を残したい」と「先生にやらせたい」は別の話
ここはかなり大切だと思います。
部活動には価値がある。
だから先生が休日も見るべきだ。
この二つは、本来イコールではありません。
地域の指導者が見る。
外部スタッフが運営する。
複数校で合同活動をする。
行政や地域団体が移動を支える。
先生自身が希望する場合は、きちんとした制度と報酬のもとで関わる。
いろいろな形が考えられます。
実際、国も2026年度からの6年間を部活動改革の「改革実行期間」と位置づけ、公立中学校等の休日部活動について地域展開を進めています。
教師の負担も、この改革が必要とされる理由の一つです。
今回のニュースで一番怖いのは
今回、「先生かわいそう」「ルールを破ったのだから当然」で意見が二つに割れて終わるのは、もったいないと思います。
私が一番怖いのは、
このニュースを見た先生が、「余計なことをしない方がいい」と思うことです。
生徒のために動く。
大会へ連れていく。
休日も見る。
困っていたら助ける。
そういう行動一つひとつにリスクだけを感じるようになれば、当然、人は離れていきます。
そして最後に困るのは、生徒です。
先生を守ることは、生徒の活動を守ることでもある
学校教育の話になると、「子どものために」という言葉がよく使われます。
もちろん、一番大切です。
ただ、子どものための活動を支える大人が疲弊してしまえば、その活動自体が続きません。
だから、先生を守る仕組みを作ることも、結果として子どもを守ることにつながります。
ルールは必要です。
今回、ルールを破ったことまで正当化するつもりはありません。
ただ、現場で「他に移動手段が無かった」と言わせる状態をそのままにして、
「次から規定を守ってください」だけで終わるのであれば、同じ問題は形を変えてまた起きるでしょう。
必要なのは処分のその先です。
次は、先生がルールを破らなくても生徒が活動できる仕組みをどう作るのか。
今回の広島県のニュースを見て、私はそこまで考えなければいけないと思いました。
そして、「先生が部活動を見てくれて当たり前」という感覚も、そろそろ社会全体で変えていく時期なのだと思います。
今回参考にした情報
今回の記事は、RCC中国放送/TBS NEWS DIGの報道と、広島県教育委員会が9月11日に公表した懲戒処分資料、県の懲戒処分指針、広島県部活動改革推進計画を確認したうえで書いています。県教委の正式資料では、2人とも所属長の承認を受けずに生徒を自家用車へ同乗させたことが処分理由として示されています。
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